東京地方裁判所 平成11年(ワ)11010号 判決
原告(選定当事者)水野繁
右選定者 水野公徳
同右 水野定三郎
同右 平林久子
被告(選定当事者) 西崎初代
(登記簿上の氏名・「西崎初代」)
右選定者 西崎隆一
(登記簿上の氏名・別紙物件目録一記載の土地につき「西崎隆一」、同二記載の建物につき「西崎隆一」)
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)について別紙登記目録一記載の登記(以下「本件登記一」という。)の抹消登記手続をせよ。
2 被告は、別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)について別紙登記目録二記載の登記(以下「本件登記二」という。)の抹消登記手続をせよ。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件土地及び本件建物は、もと訴外水野増八(以下「訴外増八」という。)の所有であった。
2 訴外増八は、昭和五四年一二月二六日死亡した。
3 原告、選定者水野公徳、同水野定三部、同平林久子、被告及び訴外水野健太郎は、訴外増八の法定相続人である。
4 被告及び選定者西崎隆一は、訴外増八がなした昭和四八年五月二二日付け東京法務局所属公証人山岸薫一作成同年第二四一九号遺言公正証書(以下「第一遺言」という。なお、以下、遺言の略称については、混乱を避けるため、原告の付した略称に従って付することとする。)による遺言により本件土地について本件登記一を、本件建物について本件登記二をそれぞれ経由した。
5 被告及び選定者西崎隆一は、訴外増八が作成した次の遺言を破棄又は隠匿したから、民法九六五条、八九一条五号により本件土地及び本件建物について受遺者の資格を欠く。
(一) 昭和四九年一一月四日付け遺言(別紙一の一ないし四のとおり。以下「第二遺言」という。)
(二) 昭和五一年一月一五日付け遺言(別紙二の一ないし三のとおり。以下「第三遺言」という。)
(三) 別紙三の一ないし三の遺言(以下「第四遺言」という。)
(四) 昭和四八年九月七日付け遺言(以下「第五遺言」という。)
右遺言は、訴外増八の選定者水野公徳宛ての別紙四の一、二の手紙のうち同二の九行目に記載されている「遺言」のことである。
6 よって、原告は、被告に対し、相続回復請求権に基づき、本件土地について本件登記一の、本件建物について本件登記二の各抹消登記手続を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因4の事実は認める。
請求原因5の事実は否認し、法的主張は争う。
2 被告は、訴外増八が作成した遺言を破棄又は隠匿した事実はないし、そもそも、「第二遺言」ないし「第五遺言」は、次のとおり、民法八九一条五号の「遺言書」には該当しないから、被告及び選定者西崎隆一には、同号の定める欠格事由はない。
(一) 「第二遺言」は、全文自筆で書かれているものであるが、作成者訴外増八の捺印がなく、法律上有効な遺言ではない。
(二) 「第三遺言」は、訴外増八がその晩年において、その人生を振り返って、その生活史の断片を書き綴った冊子の一部であり、遺産の処理に関する意思表示を記載したものではない。
また、右書面のうち前半の部分は日付が記載されているが、後半部分は前半部分とは独立した別個の独白部分であるが、日付も署名もなく、前半部分及び後半部分を通じて増八の捺印もない。したがって、右書面は法律上有効な遺言ではない。
(三) 「第四遺言」は、原告公徳の忘恩行為を非難し、その恨みを書き付けたものにすぎず、遺産の処理に関する意思表示を記載したものではない。
また、右書面には日付が記載されておらず、捺印もないので、法律上有効な遺言ではない。
(四) 「第五遺言」は、それに該当する遺言が存在せず、「第四遺言」と同一のものである可能性がある。
仮に、訴外増八が「第四遺言」とは別に「第五遺言」を作成した事実があったとしても、他のいわゆる「遺言」がことごとく法律上有効な遺言でないことからすると、「第五遺言」も法律上有効な遺言ではないと思われる。また、別紙四の一、二の手紙の内容からすると、「第五遺言」の内容は、「西崎の兄弟には葬式・法事等に来て貰わないように」というものであるはずであり、単なる増八の希望を書き付けたものにすぎない。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 原告は、被告及び選定者西崎隆一が「第二遺言」ないし「第五遺言」を破棄又は隠匿したから、民法九六五条、八九一条五号により受遺者となることはできない旨主張するので、この点について判断する。
二 「第二遺言」ないし「第四遺言」について
1 証拠(甲一三、一四、二五の四)によれば、「第二遺言」の体裁及び内容は別紙一の一ないし四のとおりであり、「第三遺言」のそれは別紙二の一ないし三のとおりであり、「第四遺言」のそれは別紙三の一ないし三のとおりであることがそれぞれ認められる。
2 ところで、民法八九一条五号の欠格事由に該当するためには、その対象となる遺言が相続に関する遺言であること、すなわち、相続財産及び相続人の範囲に直接あるいは間接に影響を与えるおそれのある内容の遺言であることが必要である。
しかるに、「第二遺言」ないし「第四遺言」の内容は前記のとおりであり、いずれも、相続財産及び相続人の範囲に直接あるいは間接に影響を与えるおそれのある内容のものではないから、相続に関する遺言ではない。
3 また、民法八九一条五号の欠格事由に該当するためには、変造・破棄・隠匿の行為が有効に成立した遺言に対してなされたことは必要である。遺言は、民法に定める方式に従わなければすることはできない(民法九六〇条)が、「第二遺言」ないし「第四遺言」の体裁は前記のとおりであり、訴外増八の捺印がないから、自筆証書遺言(民法九六八条)及び秘密証書遺言(同法九七〇条)の方式によっていない。また、その体裁から公正証書遺言(同法九六九条)でないことも明らかである。したがって、「第二遺言」ないし「第四遺言」は民法に定める方式に従っていないから、法律上有効な遺言ではない。
4 したがって、いずれにせよ、「第二遺言」ないし「第四遺言」は民法八九一条五号の「遺言書」には該当しないから、被告及び選定者西崎隆一に、同条五号の欠格事由があるとはいえない。
三 「第五遺言」について
また、「第五遺言」に関しても、被告及び選定者西崎隆一に民法八九一条五号の欠格事由があるとはいえない。
その理由は、次のとおりである。
1 証拠(甲三三の一)及び弁論の全趣旨によれば、訴外増八が昭和四八年九月七日ころに選定者水野公徳に対し別紙四の一、二の手紙を出したことが認められるところ、右手紙には「(前略)私が死ねば財産全部相続して葬式一式年回法事・・事一任をしました 外の兄弟は来て貰わない様遺言しました 安心して死にます(後略)」(・・部分は判読不可能)と記載されているだけで、右記載中にある遺言が、<1>葬式や法事等に列席する者を制限する趣旨だけのものなのか、<2>相続に関する事項まで含むものなのかが明らかではない。
2 <1>の場合
この場合は、相続に関する遺言ではないから、仮に被告及び選定者西崎隆一がこれを破棄又は隠匿したとしても、民法八九一条五号の欠格事由があるとはいえない。
3 <2>の場合
(一) 相続人が相続に関する被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した場合において、相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法八九一条五号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である(最高裁判所平成九年一月二八日第三小法廷判決)。
このことは、同法九六五条によって同法八九一条を引用する受遺者の欠格事由についても同様である。
(二) そこで、本件について検討する。
証拠(甲五)によれば、訴外増八は、「第一遺言」によって、被告及び選定者西崎隆一に対し本件土地及び本件建物を含めた遺産全部を遺贈すること、受遺者らは遺言者の死亡後は法事供養を必ず行うことを主な内容とする遺言をなしたことが認められる。
他方、別紙四の一、二の手紙の中に「私が死ねば財産全部相続して葬式一式年回法事・・事一任をしました」との記載があるが、その前後の文章の内容、右手紙の中に現れる西崎隆義が被告の夫でかつ選定者西崎隆一の父親であること(甲三)、訴外増八が右手紙を書くわずか三か月半前に前記のとおりの内容の「第一遺言」を作成していることからすれば、「私が死ねば財産全部相続して葬式一式年回法事・・事一任をしました」というのは、相続に関して「第一遺言」の内容を確認したものであることが明らかである。
ただし、訴外増八が右手紙において単に「第一遺言」の内容を記したにすぎないのか、それとも、同訴外人が「第一遺言」作成後に新たに「第一遺言」の内容を確認する内容の「第五遺言」を作成していたのかは明らかでないが、仮に前者であるとすれば、破棄又は隠匿の対象となる「第五遺言」自体が存在しないことになるし、仮に後者であるとすれば、被告及び選定者西崎隆一が「第五遺言」を破棄又は隠匿する理由がなく、仮に何らかの理由で破棄又は隠匿した事実があったとしても、それによって同人らが利益を得るものではなく、同人らが相続あるいは遺贈に関して不当な利益を目的としてなしたということはできないから、いずれにせよ、被告及び選定者西崎隆一には、「第五遺言」に関し、民法八九一条五号の欠格事由があるとはいえない。
四 よって、原告の本訴請求は理由がないのでこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六―条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤繁)
物件目録
一 所在 新宿区南元町
地番 一一番三
地目 宅地
地積 一六一・三二平方メートル
二 所在 新宿区南元町一一番地三
家屋番号 一一番三の一
種類 居宅
構造 木造瓦・亜鉛メッキ鋼板葺二階建
床面積 一階 七三・五三平方メートル
二階 七〇・五六平方メートル
登記目録
一 東京法務局新宿出張所昭和五五年五月二三日受付第一八四九〇号所有権移転
原因 昭和五四年一二月二六日遺贈
権利者その他の事項 共有者
新宿区南元町一一番地三
持分二分の一
西崎初代
新宿区南元町一一番地三
持分二分の一
西崎隆一
二 東京法務局新宿出張所昭和五五年五月二三日受付第一八四九一号水野増八持分全部移転
原因 昭和五四年一二月二六日遺贈
権利者その他の事項 共有者
新宿区南元町一一番地三
持分一〇分の二
西崎初代
新宿区南元町一一番地三
持分一〇分の二
西崎隆一